静寂の森の鉛色の朝

朝霧が森を包み込み、空気は鉛色に染まっていた。真琴は小さな道を歩きながら、その深い静けさに身をゆだねていた。

彼女はこの場所が好きだった。ここには都会の喧騒も、誰かの声もない。木々が重なり合い、光も音も遮断されたような世界が広がっている。

しかし、その日は何かが違った。通り過ぎる風が音を立てずに木の葉を揺らし、足元の落ち葉さえも静かだった。真琴はふと辺りを見回したが、不思議なことに鳥の姿も鳥の声もなかった。

彼女は不安にかられ、小さな声で呼吸を整えた。自然はいつも生きているのに、ここだけは時が止まったかのようだった。どこかで異変が起きている予感が胸に迫ったが、理由はわからなかった。

やがて、彼女の目に一羽の小さなカラスが飛び込んできた。カラスは草の間で何かをつついていたが、それも一瞬でやめて、真琴のほうをじっと見つめる。静寂の中で、その視線はまるで意味を持つ合図だった。

真琴は深呼吸し、歩みを進めた。恐怖でも期待でもなく、ただただその場に立ち続け、静かな森の謎を抱えたまま時間が流れていくのを感じた。解き明かせないままの謎が、彼女の心を不思議なほど落ち着かせていた。

朝はやがて霞み、鉛色のグレーが淡い青に変わっていった。森の静けさは崩れず、真琴は自分自身の内面と向き合う旅を続けることを選んだ。何も答えがなくても、そこには確かな存在感があった。