終わらないセールの迷路で

ショッピングモールの中で、理央はふと気づいた。セールの案内がやたらと多く、どこに行っても同じような看板が目に入る。彼女はその“終わらないセール”の迷路に巻き込まれたような気分になった。

理央は普段から計画的な買い物を心がけていたが、この日はただぶらぶらとを楽しむつもりだった。それなのに、割引の文字が彼女の視線を捕らえ、気がつくと手に持っているのは予定外の袋ばかり。

周囲には多くの買い物客があふれ、みんなが何かを得ようと急いでいるようだ。しかし、彼女は次第にこの熱狂的な群れに違和感を感じ始めた。実際の価値よりも安さに目がくらみ、必要でないものまで手に取っている自分に気づいたのだ。

彼女は一度、フードコートの隅に座り込み、買い物袋を見つめた。なぜこんなに多くのものが必要なのか？ 何を求めていたのか？ 自問自答が続く中で、理央の心は静かにざわめいた。

そのとき、ふと後ろから小さな声が聞こえた。「ここ、迷子になった？」「ええ、まさにそんな感じです」

振り返ると、小学生くらいの少年が笑っていた。しかし、彼の笑顔は、あのセールの熱狂とはまるで違う純粋さを持っていた。理央はそこで、小さな買い物袋を持つ少年に連れられ、静かな図書館へ向かうことにした。

図書館の静けさの中、彼女は買い物の重みから少しずつ解放されていった。必要なのは物ではなく、自分の時間と気持ちを大切にすることだと、改めて感じたのだった。物の価値ではなく、心の静けさの尊さ。その日、理央はセールから逃れ、見つけた本のページにもう一度心をゆだねる。