茶畑で見つけた静かな会話

広がる茶畑の間を歩くと、風に乗って葉の香りが鼻をくすぐった。冬の終わりの冷たさに包まれながら、真紀子は祖母の話を思い返していた。祖母はかつて、茶摘みに行った日のことを楽しそうに話してくれたが、彼女自身はその体験をしたことがなかった。

今日は初めて、一人で茶畑に足を踏み入れた。葉を摘み取る手が自然と静かなリズムを生み出し、周囲の鳥のさえずりや遠くの風の音が心地よく混ざっていた。しかし、真紀子はどこか自分の存在がここに馴染まない気分を感じていた。都会での忙しい生活から離れても、完全には心が静まらないのだ。

その時、隣で同じく摘んでいた年配の女性が話しかけてきた。彼女は茶摘みについての昔話を語りはじめたが、それはただの技術的な話ではなく、その土地で育まれてきた思い出や変わらぬ季節の流れに関するものだった。真紀子は話を聴きながら、ただの労働ではない、深い文化のつながりを感じた。

会話の終わりに、女性はこう言った。「茶摘みは結果ではなく、続けることに意味があるのよ」。その言葉は真紀子の心に長く残った。都会の速さに追われる毎日とは違い、ここでは時がゆっくりと流れ、生活の一部としての文化が生きていると気づいたのだ。

帰り道、真紀子は自分の生活にも、何か「続けること」の価値を探してみようと思った。茶葉の香りを胸に秘め、彼女の心には静かな決意が芽生えていた。