祖父の庭の時計

あの日、祖父の古い庭で、小さな物語が静かに始まった。

僕は久しぶりに祖父の家を訪れた。昔はよく一緒に庭の手入れをしたが、今は都会で忙しい生活を送っている。庭の隅には大きな時計があり、祖父はそれをいつも大切にしていた。今日はその時計の調子が悪いという。

祖父は「この時計は時間を教えるだけじゃない、家族の思い出も刻んでいるんだ」と話した。僕はその言葉を半信半疑で聞いていたが、時計の針は確かに不規則に動いている。祖父と一緒に中を開けてみると、昔の家族の写真の切れ端が時計の中から出てきた。それは誰にも話していなかった秘密の場所だった。

時間の感覚と記憶が重なるその不思議な体験は、僕にとって新鮮だった。祖父は笑いながら、「家族はいつでもここにいる。どんなに遠く離れても、この庭の時間の中に」と言った。

僕は時計を直せなかったけれど、その夜、庭に座って星を見上げながら、祖父の言葉を心に刻んだ。時間は戻らないけれど、家族の記憶は消えないのだと感じたのだった。